私がこれまでの職人人生で出会ってきた古い蛇口たちは、それぞれが当時の時代背景を映し出す個性豊かな顔ぶれでした。古い蛇口のトラブルを解決する際、まず私が行うのは、その蛇口が「どの時代の、どの種類か」を見極めることです。例えば、1970年代の公団住宅によく見られる「台付2ハンドル混合水栓」の場合、最も多いトラブルはハンドル下からの水漏れです。これはパッキンの劣化だけでなく、ハンドルを支える「インサート」という部品が経年劣化で割れていることが多いのですが、この時代の製品は現代のものより樹脂が厚く、適切な補強で蘇ることがあります。また、1980年代後半に登場し始めた初期の「シングルレバー混合水栓」は、現在の主流であるセラミックディスク式とは異なり、金属のボールが回転する方式を採用しているものがあります。この種類は独特の重厚な操作感がありますが、一度水漏れが始まると専用の「スプリングパッキン」が必要となり、部品の入手が極めて困難です。こうしたケースでは、私は敢えて純正品を探すのではなく、現代のパッキンを旋盤で削り出してフィッティングさせることもあります。さらに、古い壁付単水栓においては、吐水口の根元からの漏水が頻発しますが、これは単なるUパッキンの劣化だけでなく、本体側の受け口が長年の摩擦で削れてしまっていることが原因です。この場合、通常のパッキン交換では直りませんが、シールテープを併用したり、少し厚みのある社外品パッキンを選択することで、劇的に改善することがあります。古い蛇口の修理において最も技術を要するのは、実は「分解」そのものです。長年放置された蛇口は、カルキ分がセメントのように固まり、金属同士が癒着しています。無理に回せば一瞬で終わりですが、プロはここでヒートガンを使って加熱したり、超浸透性の潤滑剤を時間をかけて染み込ませたりといった、忍耐強い作業を繰り返します。お客様からは「蛇口一つにそんなに時間をかけるのか」と言われることもありますが、その古い蛇口がなくなれば、壁のタイルを壊して配管からやり直さなければならない状況も多いのです。古い蛇口を守ることは、家全体を守ることに繋がります。最近の蛇口はスタイリッシュで便利ですが、内部はプラスチックのユニットばかりで、壊れれば捨てるしかありません。対して古い種類の蛇口は、金属の塊であり、知恵と技術さえあれば何度でも息を吹き返します。その逞しさこそが、私が古い蛇口の修理にこだわり続ける理由なのです。
水道職人が教える古い蛇口の種類別トラブル解決事例集